今回は繊維の卸問屋から繊維商社を経て日本をトップを走り続ける伊藤忠のDNAについて解説いたします。
就職先人気ランキングの1位である企業のDNAについて迫ります。
はっきり言って伊藤忠の社員はみんな素晴らしいですし、うらやましいです。
伊藤忠から学ぶビジネスのヒント
人格者を重用しない
私がとても勉強になったのは第2章の財閥系商社との違いの場面です。2代目の伊藤忠の社長である二代目忠兵衛の生涯の師である井上準之助の発言です。
彼は2代目忠兵衛に対して「人格者ばかりを重用してはいけない」と説きました。
ここでいう人格者とは以下のことを指します。
忠義一途で店のためならどんなことでもやる人間、そして、店よりも伊藤家に奉公している気でいる人間
伊藤忠 財閥系を超えた最強商人 野地秩嘉 p65
経営者としては人に従業員として働いてもらうには時に見方を変えていく必要があると私もこの文章を読んで強く納得しました。
長い付き合いで歴史ある社員でも能力値が見合わなければほかの能力ある人を探して新しく登用し組織を活性化していかなくてはいけません。
そのようなことを考えると経営者というのは人情ではなく冷静な能力や期待値に応じて判断を下していく必要があります。
人格者ばかりを重役として登用するだけではなく本当に組織が向上する登用を行う。これが経営には必要な素質なのでしょう。
社員を守る、大事にする
商社という圧倒的な製品力で使用に挑むメーカではなく商社という人を起点にビジネスを飛躍させるような業種は人を輝かせる環境づくりが大事です。
これを創業時から実践し今でも会社のDNAとして反映させているのはこの激動の日本の中で圧倒的な力を手にした理由ではないかと私は考えています。
伊藤忠が伊藤忠として発足する前の紅忠という名前の商店の時から社員をとても大事にする文化がみられます。
初代忠兵衛は明治初期に1か月に6回もすき焼きを社員300人にふるまう会を開いていたのです。
当時のすき焼きはとても高価なもので現代でいうミシュラン3つ星を300人にごちそうするという大盤振る舞いです。
本書ではこれを当時から「社員にやさしい」と表現されています。
私は少し違った視点で見ています。
初代忠兵衛はどこかで初めて食べたすき焼きに感動を覚え、同じ商いを身を粉にしてともに行う兄弟のような存在である社員にこの感動を味わってほしいという気持ちでふるまったのではないでしょうか。
兄弟のような大事な存在だからこそともに喜びあいたい。優しいではなく心から大事な存在だからこそ共有したい。
ここには経営者というのは本当に社員を大事な仲間としてともに生きていこうという真心が会社を大きくする人間にとっては大事な要素なのだと思います。
冷静な判断で経営を見極めつつ社員を心から大事に思う。簡単に見えてとても難しいことだとサラリーマンである私は感じました。
マーケットインとプロダクトアウト
「マーケットイン」と「プロダクトアウト」は、製品やサービスの開発に関連するアプローチや戦略を表す用語です。
伊藤忠商事はマーケットインに軸足を置いて商売活動を行っています。
- マーケットイン(Market In):
マーケットインアプローチは、市場の需要や顧客のニーズに焦点を当てて製品やサービスを開発する方法論です。このアプローチでは、まず市場の要求や顧客のフィードバックを収集し、それに基づいて新しい製品やサービスを設計および開発します。マーケットインのアプローチは、市場で成功するために顧客の要求を満たすことを優先し、市場の変化に対応する能力を強化します。市場調査、顧客インタビュー、フィードバックの分析などが、マーケットイン戦略の一部として利用されます。 - プロダクトアウト(Product Out):
プロダクトアウトアプローチは、製品やサービスのアイデアを内部から発展させ、その後市場に導入する方法論です。このアプローチでは、製品の機能や特性を主に考え、それを市場に提供することを優先します。プロダクトアウトのアプローチでは、内部の技術やリソースを活用し、市場がその製品やサービスを受け入れることを期待します。これは、技術主導のアプローチとも言えます。製品の設計と開発は、内部のリソースと能力に基づいて行われます。
岡藤CEOがトップに就任して以来マーケットインのビジネスをより浸透させたのが伊藤忠飛躍の一因であるかもしれません。
伊藤忠のIT系の会社であるCTCもマーケットインの思考で市場にいる顧客が欲しいと思うものをアジャイル型で開発を進めることはもちろんですが、欲しいものは他社から持ってきて顧客に合った製品を提案するという顧客課題の解決へのスピード感を常に意識しています。
また、傘下のファミリーマートでは顧客が求める製品をいち早く提供するという目的で物流を改革しスピードを支配しています。
商社という顧客とプロダクトをつなぐという役目を負う仕事だからこそこのようなマーケットインのアプローチで人々の生活を支えている面は私たちも学ばなくてはいけません。
ビジネスではやりたいよりも求められていることをいかに忠実に実現できるかがカギなのです。
あくまでもお客様を見て商売をする。それがマーケットインです。
伊藤忠 財閥系を超えた最強商人 野地秩嘉 p249
どちらのアプローチも一長一短があり、成功するためには状況に応じて適切なアプローチを選択することが重要です。ですが、商社では顧客のニーズや市場のトレンドに敏感に対応することができ、市場での需要に合致する製品やサービスを提供するのが彼らに課された使命なのではないでしょうか。
イニシアチブ
商社パーソンは商流においてイニシアチブ、つまり主導権を握ることが重要だと岡藤CEOは説きます。
要するにイニシアチブとは商社が主導権を握ること。企画でもいい、強力な製品でもいい。それを考えるのが商社の仕事
伊藤忠 財閥を超えた最強商人 p210
メーカーや製品担当者よりも近い距離で彼らがいることで見える景気を利用して主導権を握るのが重要なのです。
これは普段から営業やマーケターの人は肝に銘じておくべきだと思います。
あくまでも顧客を理解している人間が製品の手綱を握りよりよく改良していかなくてはいけません。
過去の日本はこの思考がないためにたくさんの機能や技術だけを集積した製品を作り海外に追随されていいたのではないでしょうか。
発明するのではなく発見する。これを常に考えてビジネスと向き合っていきましょう。
まとめ
- 重役登用は能力>年数
- 社員は経営者の家族であり偉大な宝物
- 顧客が望むものは一番近い人間が見つける
- 常に主導権を握り続ける
ありきたりな考えかもしれないですが、経営者の発信でこの基礎ができている企業だからこそ激動の日本で生き残りトップで君臨し続けられるのではないでしょうか。
伊藤忠の実際の社員がこれ読んだらどう思うのかがとても気になりますね。
著者について
野地秩嘉(のじ・つねよし)
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ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経て現職。人物ルポルタージュ、ビジネス、食、芸能、海外文化など幅広い分野で執筆。著書は『サービスの達人たち』『イベリコ豚を買いに』『トヨタ物語』『スバル―ヒコーキ野郎が作ったクルマ』『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『ヤンキー社長』『新TOKYOオリンピック・パラリンピック物語』『京味物語』など多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。
伊藤忠について
伊藤忠商事株式会社は、1858年初代伊藤忠兵衛が麻布の行商で創業したことにはじまり、一世紀半にわたり成長を続けてまいりました。
会社概要|伊藤忠商事株式会社 (itochu.co.jp)
現在は世界61ヶ国に約90の拠点を持つ大手総合商社として、繊維、機械、金属、エネルギー、化学品、食料、住生活、情報、金融の各分野において国内、輸出入及び三国間取引を行うほか、国内外における事業投資など、幅広いビジネスを展開しております。
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会長CEO挨拶|伊藤忠商事株式会社 (itochu.co.jp)