イスラエルの歴史学者・哲学者であるユヴァル・ノア・ハラリ(Yuval Noah Harari)は、オックスフォード大学で中世史と軍事史を専攻し、その後、エルサレムのヘブライ大学で教鞭をとるなど、優れた学者としての経歴を持つ人物です。彼の著書『サピエンス全史』は世界で1200万部を超えるベストセラーとなり、その洞察力と知識の深さから多くの読者に影響を与えました。
この本を読もうと思ったきっかけはお笑い芸人のカズレーザーが紹介していたことがきっかけです。
「サピエンス全史」は、私たちの種であるヒト・サピエンスが地球上の支配的な存在となるまでの驚くべき旅を探求する書籍です。本書の魅力は、サピエンスの歴史に関する新しい理解を提供するだけでなく、私たちの種の進化、文化、思考、そして未来について深く考えるきっかけを提供してくれる点にあります。
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本書について
「サピエンス全史」は、上巻と下巻に分かれていて上巻から下巻にかけて人類の歴史が進んでいきます
上巻:ヒト・サピエンスの誕生からグローバル化を進める帝国まで
上巻では、ヒト・サピエンスの誕生から、私たちが「虚構」の能力を手に入れる「認知革命」までを詳細に探求します。ハラリは、新しい思考と意思疎通の方法が登場し、それに伴い「虚構」と呼ばれる架空の概念が重要な役割を果たすようになったことを強調しています。また、狩猟採集生活から農業社会への移行、そして貨幣、帝国、宗教(イデオロギー)といった三つの普遍的秩序の形成に焦点を当てています。
下巻: 宗教という超人間的秩序から超ホモ・サピエンスの時代
下巻では、約500年前の「科学革命」から現代までの歴史をたどり、サピエンスが知識の追求と力を手に入れる過程を明らかにしています。科学、帝国主義、資本主義が歴史を動かす大きな要因となったことを論じ、また、アジアと西洋の違いにも触れています。さらに、サピエンスの幸福についての疑問や未来への展望を探求し、特異点(シンギュラリティ)や人間の意識とアイデンティティの根本的な変化についても考察しています。
これらのテーマは、人類の歴史と未来について深い洞察を提供し、読者に知識と考える材料を提供しています。
上巻
上巻は、サピエンス全史の中でも最初の篇であり、人類の興味深い起源と進化に焦点を当てています。この部分では、私たちの祖先が東アフリカの片隅で取るに足りない存在から、食物連鎖の頂点に立つ「ホモ・サピエンス(「賢いヒト」の意)」へと進化した過程が描かれています。
弱者から頂点へ
サピエンスの祖先は、現代から見れば肉食獣に対して脆弱な存在でした。彼らは体力や速さ、武器を持つことで他の動物に対抗することが難しく、生存においては不利な立場にありました。しかし、彼らが食物連鎖の頂点に立つことに成功したのは、驚異的な「想像力」を持っていたからでした。この想像力は、集団で協力し、柔軟に様々な状況に対処する能力を発展させる鍵となりました。
しかし、サピエンスが食物連鎖の頂点に立った理由については、学術界でいくつかの異なる説が存在します。その中で最も一般的な説は、「交雑説」と「交代説」です。
そしてこの交代説と交雑説には私人類が共生を進めていく中で開けてはならないパンドラの箱が存在していることも示唆されています。
虚構の力
「想像力」とは、新しい考えや概念を生み出す力で、約7万年前の「認知革命」を通じて、サピエンスは「虚構=架空のものごと」について語れるようになりました。
虚構は、伝説や神話だけでなく、企業、法制度、国家、国民、人権、平等、自由など、現代の巨大な文明を築く基盤となりました。この点が、サピエンスが他の種から脱し、文明を築く上での最初の重要なターニングポイントでした。
虚構の力は、神話や物語を通じて特に顕著でした。サピエンスは「虚構を信じ、語る認知能力」を発展させ、神話や物語を創り出すことで、何万という規模の集団を結集させることが可能になりました。
多くの面識のない人々が、同じ神話を信じ、共感し、協力することができるようになったのです。これは社会性と協調性の発展にとって決定的な要因となり、サピエンスの集団が他の動物とは異なる文明を築く基盤となりました。
虚構の世界を共有することで、サピエンスは共同の目標を追求し、巨大な社会的構造を築いたのです。
実はこの虚構の力が資本主義という概念を生み出し私たちの現在の文明基盤となっていると考えると人類が持つ虚構の力は恐ろしいですね。この虚構の力を巧みに操れる人類が現代ではカリスマとして君臨しているのかもしれません。
農業革命への選択
サピエンスは狩猟採集生活が豊かで健康的だったにも関わらず、農業革命を選択しました。この選択は、個人単位の幸福ではなく、種の繁栄を目指すものでした。
狩猟採集生活の時代から現生人類の遺伝子は変わらず、多くのサピエンスの特徴は、狩猟採集民の時代に形成されました。そのため、狩猟採集の本能が私たちに刻み込まれています。高カロリーな食べ物を見つけるとすぐに食べたくなる本能も、狩猟採集民の遺伝子に根ざしています。
しかし、農耕によって人口は急増し、社会的構造も大きく変わりました。サピエンスは食物供給を増やし、文明を築く一方で、労働時間が増加し、感染症のリスクも高まりました。この選択は、大きな結果を求める一方で、大きな苦しみをもたらすものでした。
狩猟採集文明と農耕文明に共通するのは、サピエンスが数多くの動物たちを絶滅させ、改良を行ったことです。彼らは加害者としての一面も持っており、この過程で生態系にも大きな影響を及ぼしました。農業は食物供給を安定させる一方で、自然環境への介入も増加させ、生態系のバランスを崩しました。ハラリは、サピエンスが選択した道が、幸福の増加と同時に環境への影響も拡大させたと主張しています。
サピエンスが農業革命を選んだことは、種の繁栄という大きな目標を達成する一方で、新たな問題や個別の苦しみを引き起こす結果となりました。
私はここを読んでこの世の中で一番恐ろしいのは我々人類であるということを確信しました
小麦の奴隷となる人類
ユヴァル・ノア・ハラリは、小麦がサピエンスを操り、サピエンスが小麦に家畜化されたというユニークな見解を提唱しています。小麦に魅了された人類は、一箇所に定住し、小麦の世話をする生活に時間を費やすようになりました。これによって、農業社会が形成され、人類の歴史と生活様式が根本的に変わることとなりました。
しかし、この農業社会の発展はさまざまな影響をもたらしました。まず、人口爆発が起こり、飽食のエリート層が誕生しました。一部の人々は食べ物に事欠かず、豊かな生活を楽しむ一方で、平均的な農耕民は過酷な労働を強いられ、労働時間は増加しました。
さらに、農耕社会の生活は、サピエンスの身体には適していなかったため、椎間板ヘルニアや関節炎などの健康問題が増加しました。この時代の人類の骨格を調べると、農作業の重労働による影響が見られます。
また、農耕社会は単一の主要食材に依存しました。小麦やジャガイモなど一握りの作物が主要な食糧源であり、これにより天候や災害などが食料不足を引き起こす可能性が高まりました。食糧不足の際には何百万人もの人々が餓死することも珍しくありませんでした。
さらに、土地や食糧などの資源の所有権が生まれ、競争や争いが増加しました。
小麦の支配と家畜化によって、人類は新たな生活様式を築きましたが、その一方で新たな問題と苦難も抱えることとなりました。
下巻
下巻では、ユヴァル・ノア・ハラリがヒト・サピエンスが文明を築いていく過程を詳しく説明しています。この部分では帝国の成立、宗教、貨幣、科学などの主要なテーマやアイデアが取り上げられています。
「科学革命」
ユヴァル・ノア・ハラリが「サピエンス全史」の下巻で詳細に探求したテーマの一つが「科学革命」です。この革命は約500年前に起き、過去500年間で最も重要な変革の一つとされています。ハラリはこの革命の性質を通じて、サピエンスがどのようにして知識と力を獲得し、文明を発展させたかを解説しています。
この時期の「科学革命」は、イデオロギーや経済的要因と結びつき、大規模な協力と資金投資を伴って科学の進歩が実現しました。ハラリは、サピエンスが強大な力を手に入れ始めた瞬間が、自己の無知を認識した瞬間であると主張します。その後、サピエンスは知識の探求を貪欲に追求し、経済的リソースが知識の方向性に影響を与えたことも示唆されています。
さらに、ハラリは「科学革命」の背後には「帝国主義」と「資本主義」といったイデオロギーが密接に結びついていたことを指摘します。西洋の「探検と征服」の精神と、それを支える文化的価値観、神話、司法組織、社会政治構造が、科学の急速な進展を後押ししました。科学は帝国にも影響を及ぼし、侵略行為を正当化する手段となりました。資本主義のイデオロギーと科学による生産性向上が相まって、未来への富の探求が説得力を持つようになりました。
「人類の幸福」
ハラリは、人類が特異点(シンギュラリティ)に向かって進化しているとの見方を提示しています。これには、技術と組織の変化だけでなく、人間の意識とアイデンティティの根本的な変化も含まれています。遺伝子によって規定された「何を望むのか」という状態から、テクノロジーを通じてその状態を変える可能性が開かれつつあるというのです。
この文脈で、ハラリは読者に問いかけます。「私たちは何を望みたいのか」という重要な問いに対する答えを探求する必要があると指摘しています。この問いへの答えが、サピエンスの未来がどのように展開し、特異点に向かって進むかに影響を与えるでしょう。
まとめ
- 虚構の力が人類(ホモサピエンス)を飛躍させるきっかけとなる
- 農耕文明が人類同士の争いや地位の発端となる
- 科学革命が人類の進歩を飛躍的に上げて帝国主義と資本主義がその起爆剤となる
- 今後は人類は超人類への道を歩み何が幸せなのかは個人ごとに問いかけていくべき
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感想
私はこの本を読んで衝撃を受けました。なぜなら、これまで人類という観点で歴史を見たことなく、なぜ私たちが今の文明でこのように生きているのかを知ることができたから。いや、というよりは再認識できたからです。
この本で私は特に、資本主義の仕組みについて語られている場面が興味深く、生産に再投資する「資本主義」だけでは需要が間に合わなくなり、「資本主義」の存続のために「消費主義」が庶民に課せられたと語られる場面はサラリーマンである私たちこそ読むべき章だと思いました。
個人が人類として力強く生きていくには虚構を操り人を制する力が必要なのではとも強く感じさせられました。
著者について
ユヴァル・ノア・ハラリYuval Noah Harari
1976年生まれのイスラエル人歴史学者。オックスフォード大学で中世史、軍事史を専攻して博士号を取得し、現在、エルサレムのヘブライ大学で歴史学を教えている。軍事史や中世騎士文化についての著書がある。オンライン上での無料講義も行ない、多くの受講者を獲得している。著書『サピエンス全史』は世界的なベストセラーとなった。
「ホモ・デウス」テクノロジーとサピエンスの未来 特設サイト|河出書房新社 (kawade.co.jp)
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